「お前等、二人揃ってはみだしてんぞ」
今時電話ボックスが四つ並んでる珍しい場所で、一人の男は大荷物でドアがしまらず、もう一人の男はでかい体がボックスからはみ出している。
「母ちゃんどうしよ、アパートの鍵なくしたっ」
『はぁ??どこに?!あんたほんっっっと馬鹿ね、そういうときは実家じゃなくて不動産屋か鍵屋でしょ!!』「番号わかんねえ」『そのくらい自分で調べなさいよ!!!そもそも携帯どうしたの!!』「アパートに置いて来た」『馬鹿!!!』
大荷物がはみ出したボックスからは親子喧嘩。喧嘩というより叱られているだけか。
「携帯無い奴が電話ボックス使うの分かるけど、お前なんなの。」
「や、珍しいからちっとかけてみてんの。」『友達ぃ?』「そー今ゼミ旅行。なんか西の方来てんの。県名?福岡だっけ、ここ」
「今いる場所を忘れるな!!」
「マイナーすぎてすぐ忘れるわ。ま、それはどうでもいんだけど、なんか電話ボックスが4つ並んでんだよ、おもしろくね」『へ〜、すご〜い!珍百景に投稿しなよ〜!で、なにしてんの〜?』「電話かけてんの』「だよねー!キャハハハハ』
「しょーもな…」


「かーちゃんに聞いたら、鍵直すのって3万ぐらいかかんだって。金ねーから残って探してから帰る。」
「なんかおもれーからこいつに付き合う」
大荷物でドアが閉まらなかった男の名は、田宮。
体がでかすぎてドアからはみ出てたのは、大西。
「俺は…先に東京帰るから勝手にしろ」
突っ込み役はゼミ仲間の鈴木でお送りしました。


一応合宿で使った宿や移動した地域なんか探してみたけど夜になっても鍵は見つからない。
だったら諦めて帰れば良いものの、田舎のインフラをナメるな。21時代が終電だ!!タクシーで新幹線の駅に行くお金もないので、とりあえず飯、ということで居酒屋へ。金無いってのに飲む。ファミレスとか牛丼屋に行けば良いのに!!
「どうせならさ、かわいい女の子の家泊まりたいよね」
荷物がすごく大きい男、田宮が言う。宿屋にあるだろうものでもなんでも鞄の中につめてしまう習性から、洗い流さないトリートメントやコテにつけま必須の見た目に気を使う年頃女子がすっぽり入ってしまうくらいでかい欧米人サイズの登山用バックを2泊3日のゼミ旅行にしょってきた。
「ホテル代とかねーしな〜。ま、でも最悪野宿でもいけるでしょ」
「え、やだ」
ファミレスとか牛丼屋に行けばホテル代捻出できたかもしれないのに!!


10分後。
「「泊めてくださいお願いします!!!」」
「あたし実家なんだけど…」
「いいです大人しくします明日には出ていきます、だからお願い!」
飲み屋で隣のテーブルにいたお姉さんに声をかけてみました。
「う〜…しょうがないなぁ」
「「あざーーーっす!!」」
お姉さんは茶色に染めたつやつやのボブで、色は白く小柄。荷物のでかい男・田宮の趣味です。良かったね、かわいいお姉さんの家に泊まれて!実家だけど!
「ナミさんチってこっから近いんすか?」
「車で10分…お父さんに電話して迎えに来てもらうよ。」


押しの弱いお姉さんの家族も押しに弱かった。
まんまと今日の宿をゲットして、お風呂をいただきふかふかの布団も用意してもらいました。
「いや〜でも、ナミさんも綺麗ですけどお母さんも綺麗ですね〜!やりますねお父さん!!」
「いや〜へへへ」
娘が連れて来たどこの馬の骨かわからん男によいしょされていい気分になってていいのかお父さん!
ソファーのない居間には箪笥やピアノ、本棚が並び部屋を圧迫している。
お父さんにおしゃくをする大西の図体が邪魔くさい。
「や〜俺、こんな空気のいいとここれて幸せっす!!」
何県にいるかもわからないのに地元をよいしょー。
「で、君たちどこから来たんやったっけ?」
「東京です〜。」
「あらそうな〜ん、ナミも半年前まで東京におったんよ〜」
「もー!お母さんっ言わんでええのに!」
「え!ナミさん東京いたんすか?大学とかで?」
「えっと…バンタン卒業して、ちょっとだけ働いてた…」
「あ〜わかる!バンタンっぽいっすナミさん!オシャレ!」
「田宮君、なにバンタンっぽいって」
「やっぱ働いてたって服屋とかっすか?」
「言わない!」
「なんかねえ、この子、東京が合わ〜んとか言ってふら〜っと帰って来たんよお。あんなに東京行きたい言うて出て行ったのにねえ」
「もーいいー。あたし先寝る」
人には触れられたく無い事の一つや二つあるもんです。
「「ナミさんおやすみなさ〜い」」
なんてことを察してるわけではありません。


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